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東京地方裁判所 昭和50年(行ウ)4号 判決

東京都渋谷区東一丁目二六番二六号

原告

富士ビルディング株式会社

右代表者代表取締役

木島高昭

右訴訟代理人弁護士

大木市郎治

東京都渋谷区宇田川町一の三

被告

渋谷税務署長

右指定代理人

玉田勝也

室岡克忠

斉藤幸雄

松本庄蔵

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告

1  被告が昭和四八年六月二〇日付でした原告の昭和四六年九月一日から同四七年八月三一日までの事業年度分の法人税の更正及び過少申告加算税の賦課決定を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決

二、被告

主文と同旨の判決

本案につき、

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決

第二、原告の請求の原因

一、原告は、不動産管理等を業とする会社であるが、昭和四七年一〇月三〇日被告に対し、その同四六年九月一日から同四七年八月三一日までの事業年度分(以下「係争年度分」という。)の法人税につき、所得金額二五九万七四三五円、税額七二万七一〇〇円とする白色の確定申告をしたところ、被告は、これに対し、同四八年六月二〇日付で所得金額二五三一万三一七五円、税額九〇四万円とする更正及び過少申告加算税四一万五六〇〇円の賦課決定(以下、これらの処分を「本件処分」という。)をした。

二、しかしながら、原告の係争年度分の所得金額は確定申告のとおりであるから、本件処分は違法であり、取り消されるべきである。

第三、被告の本案前の抗弁及び請求の原因に対する答弁

一、本件処分は、昭和四八年六月二〇日付でされ、同処分通知書は同月二二日原告に送達されて原告はこれを了知したものであるが、原告は、本件処分につき、審査請求についての裁決を経ることなく、昭和五〇年一月二三日本件訴えを提起した。してみると、本件訴えは、課税処分取消訴訟につき裁決前置を定めた行政事件訴訟法第八条第一項ただし書及び国税通則法第一一五条第一項に抵触するとともに、行政事件訴訟法第一四条第一項及び第三項本文各所定の出訴期間を経過して提起された不適法な訴えである。

原告は、本件訴えが裁決を経ず、あるいは、同条第三項本文の出訴期間を経過して提起されたことについては、同項ただし書の正当な理由があると主張する。しかしながら、本件処分と昭和四五年九月一日から同四六年八月三一日までの事業年度分(以下「前年度分」という。)の更正とを比較すると、いずれが処分を受けた者にとり不利益な処分であり、いずれについて不服申立て等の手続をすべきであるかは、何人にも容易に判断し得るものであるのみならず、原告は、前年度分の確定申告、修正申告及び係争年度分の確定申告に際し、申告書類等の作成を税理士に依頼して行つていることからすれば、原告の税務処理には税理士が関与し、したがつて、本件処分等の処理方について相談に預つているものと推測されるから、原告主張のように信じて審査請求等の手続をとらずに放置しておくということは、専門の法律知識を有しない一般人といえどもあり得ないことであり、仮に原告がその主張のように信じていたとすれば、これには重大な過失があるものといわねばならない。そうすると、原告が正当な理由として主張するところのものは、とうてい本件処分について審査請求等の手続を経ずに放置しておいたことの正当な理由に当たらない。

二、請求の原因第一項の事実は認め、同第二項は争う。

第四、本案前の抗弁に対する原告の答弁

一、原告が、前年度分の確定申告、修正申告、係争年度分の確定申告に際し、申告書類等の作成を税理士に依頼して行つたことは認める。

二、しかしながら、本件訴えは、次に述べるとおり、審査裁決を経ており、かつ出訴期間を遵守している。

1  原告は、昭和四六年一〇月三一日被告に対し、前年度分の法人税につき、欠損金一四四三万一六一四円、税額零円とする白色の確定申告をしたところ、同申告には、受取利子六〇〇万円の計上もれ、支払利子中一〇四七万〇八四〇円の過大計上及び都民税三三二〇円の損金算入の誤りがあつたため、同四七年七月二八日被告に対し、右金額を加算の上、所得金額二〇三万九二二六円、税額五七万〇九〇〇円とする修正申告をした。そして、これに基づき、係争年度分の法人税については、右のとおり前年度分に計上した受取利子及び支払利子を計上することなく、確定申告をした。これに対し、被告は、同四八年六月二〇日付で、前年度分につき修正申告の理由を認めず確定申告どおり税額を零円とする更正を行うと同時に、これに関連して係争年度分につき本件処分をした。そこで、原告は、前年度分の更正につき、法定の期間内に審査請求及び取消しの訴え(当庁昭和四九年(行ウ)第七三号事件)の提起をしたものである。

2  以上によれば、前年度分の更正と本件処分とは、一体不可分、表裏一体の関係にあつたのであるから、前年度分の更正についての審査請求には本件処分についての不服申立ても含まれているとみるべきであり、したがつて出訴期間をも遵守したものというべきである。

3  仮にしからずとしても、右の経緯に照らせば、原告が、前年度分の更正が取り消されるならば、当然本件処分も取り消されるものと信じ、前年度分の更正についてのみ審査請求等をすれば十分であると考えたのも、法律の専門家でない者としてはやむを得ないところであるから、本件処分について裁決を経ることなく、かつ、出訴期間を経過して本件訴えを提起したことには、正当な理由がある。

4  前年度分の更正について原告のした異議申立て及び審査請求に対しては、いずれもこれを却下する旨の決定及び裁決がされているので、前年度分の更正に関連する本件処分について重ねて異議申立て及び審査請求をしても、不服申立期間を経過した今となつては、同様に却下されることは明らかであるから、この点においても、裁決を経ないで本件訴えを提起したことには正当な理由がある。

理由

一、出訴期間について

昭和四八年六月二〇日付で本件処分がされ、同月二二日その通知書が原告に送達されたことは、当事者間に争いがなく、本件記録によれば昭和五〇年一月二三日に本訴が提起されたことが認められるから、本訴が本件処分の日から一年を経過した後に提起されたことは明らかである。

原告は、前年度分の更正について、法定の期間内に審査請求及び取消しの訴えの提起をしたから、これと一体の関係にある本件処分についても裁決を経たこととなり、したがつて出訴期間を遵守していると主張する。

しかしながら、原告主張の課税の経緯を考慮しても、前年度分の更正と本件処分とは別個の処分であることは明らかであるから、本件処分の取消しを求めるには、本件処分に対し審査請求及び訴えの提起をすべきものであることは当然である。したがつて、前年度の更正について所定の期間内に審査請求及び取消しの訴えの提起をしたからといつて、本件処分について審査請求をしたことにはならないし、本訴について出訴期間を遵守したことにもならないことはいうまでもない。よつて、原告の右主張は理由がない。

次に、原告は、出訴期間を徒過したことについて、行政事件訴訟法第一四条第三項ただし書の正当な理由があると主張する。

しかしながら、税額を零円とする前年度分の更正と本件処分とのいずれが原告に不利益であり、いずれの処分に対し不服申立てをすべきであるかは、何人にも容易に判断し得ることがらであり、さらに、前年度分及び係争年度分の法人税の申告について税理士が関与していたこと(このことは、当事者間に争いがない。)を考慮すれば、原告が前年度分の更正について審査請求及び訴えの提起をすればその目的を達すると誤信したことをもつて、正当な理由に当たるとはいえない。

二  結論

そうすると、本件訴えは、その余の点について判断するまでもなく、行政事件訴訟法第一四条第三項本文の出訴期間を経過して提起された不適法なものというほかはないから、これを却下することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 杉山克彦 裁判官 時岡泰 裁判官 吉戒修一)

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